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学芸論文

上毛新聞「視点 オピニオン21」より 

 『美術館の役割(1) 詩画制作で心の安らぎ』

  富弘美術館 館長 聖生清重
 

 富弘美術館では、今年度から詩画の公募展を開始しました。「絵」と「言葉」(詩文)がひとつの画面に一体的に表現された芸術作品である詩画の可能性に着目して、詩画制作を通じて「いのち」の尊さを考え、同時に詩画を広く普及させたいとの思いを込めて実施するものです。

 新任の体育教師だった星野富弘さんが、部活指導中の大けがで四肢の機能のすべてを失った後、口に筆をくわえて制作した詩画作品を展示している富弘美術館には、開館22年間で640万人の人々が訪れました。子供から高齢者まで。北海道から沖縄、海外からも山間の美術館に足を運んでくれます。

 「いのち」と題した作品があります。紫色のおだまきの花の絵に「いのちが一番大切だと思っていたころ 生きるのが苦しかった いのちより大切なものがあると知った日 生きているのが嬉しかった」との言葉を配したものです。道端に咲く草花の絵に、かけがえのない日々の生活から想を得た生きる意味や価値、思いを込めた平易な言葉を添えた富弘作品の代表作のひとつです。

 富弘美術館に来館する大勢の方々は、退館時に「感動しました。ありがとうございました」と声をかけてくれます。東日本大震災で多くの日本人は「いのち」について、深く考えましたが、富弘作品には「いのち」へのいとおしさが底流しています。だからこそ来館者は、心にとまった作品に感動し、その感動を生きる力に変えているのだと思います。「ありがとう」の気持ちを込めて。

 一方で、時代はグローバル経済のもと、熾烈(しれつ)な競争があらゆる分野で行われています。国家、企業、都市や個人も日夜、競争にさらされています。競争とは無縁に思える日々の平凡な暮らしや義務教育の世界も例外ではありません。過度とも思える競争は何をもたらすのでしょう。神経をすり減らしたあげく心の平安を失い、病む人が増えかねません。

 こうした時代状況の中で富弘美術館にできることは何か。考えた結論が「詩画の公募展」です。富弘さんは「絵と言葉を一体的に表現した方が、より(自分の)思いを伝えることができる」と言っています。

 自分の思いを詩画に表現する機会を提供することは、喜びもあれば悲しみもある人生にとってだけでなく、競争でむしばまれる、現代に生きる人々の心の平安にわずかでも貢献できるのではないか。子供たちには富弘さんの生き方と詩画作品を学び、自らも制作することで、生きる力になる豊かな心を育んでほしい。それこそが詩画の可能性ではないか、と考えています。

 

(注)富弘美術館の入館者は2014年12月5日に650万人に達しました。

 

 

2013年12月28日 上毛新聞『視点 オピニオン21』掲載

 

 

 

2014年 12月 26日更新

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