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学芸論文

上毛新聞「視点 オピニオン21」より 

 『富弘作品の魅力(1) 花々といのち見つめて』

  富弘美術館 主任学芸員 桑原みさ子
 

 「不思議だね。来た時には何とも思わなかった花が、帰りはすごくきれいに見えるね」

 先日、富弘美術館に来館された中年ご夫婦の会話です。美術館の出入り口に生けてある白花の侘助(わびすけ・ツバキの一種)を見ながら、男性から、しみじみと出た言葉です。奥さんも深くうなずき、しばらく見入っていました。

 美術館の出入り口に立っていると、こうした光景をよく目にします。重苦しい表情で入って来られた方が帰る時は晴々とした顔つきで、私たち職員に「ありがとうございました」「とてもよかったです」「感動しました」と声をかけてくださいます。私たち職員の一番うれしい瞬間です。

 星野富弘さんの制作所感で「花を見ていると、その色、その形の美しさに驚かされることばかりだった。花は一つとして余分なものがなく、足らないものもないような気がした…中略…私は絵に関しての知識はないけれど、この自然の花を、そのまま写してゆけば、良い絵が描けると思った」と話しています。この思いのもと、富弘さんは特別な技法にこだわることなく、草花を見つめ、日々描き続けています。

 作品の多くは、野に咲く草花。花は一つとして同じものはなく、描くたびに発見の喜びがあると言います。1972年以来、今日に至るまで、500点余りの作品を生み出しています。ほとんどは花の絵です。今もなお、発見の喜びのもとに描き続けていて、富弘さんがいかに花々に魅せられているかが理解できます。そして、日常の中に輝く小さな「いのち」をとらえた言葉は、私たちのこころの奥底に響きます。

 私の幼少期は、学校の行き帰りに、四つ葉のクローバーを探したり、オオバコの花の茎で引っ張りっこをしたり、ある時は、道端に咲く小さな花を何十分も眺めたり、遊び相手は自然でした。しかし今は、移動手段のほとんどは車です。足もとの雑草を眺めるどころか、歩きもしません。ちょっとそこまで、という時でも車を利用しています。富弘作品を目の前にして、こんな生活で良いのだろうかと、私は思ってしまいます。

 ここ10年ほど、男性の来館者が目立つようになりました。社会の荒波に耐えて生活を送る人、悩みを抱える人、病に苦しんでいる人、いろいろな人がいることを富弘美術館に設置してある「ひとことノート」からうかがうことができます。こうした人々に、忘れかけていたものを気づかせてくれる力が富弘作品にはあるのだと思います。

 今月5日、富弘美術館は開館からの入館者が650万人を超えました。年平均28万9000人という数は、少なくない数字だと思います。人々を魅了してやまない富弘作品の魅力とは、いったいどのようなものなのか、あらためて考えてみようと思います。 

 

 

2014年12月31日 上毛新聞『視点 オピニオン21』掲載 

 

 

2016年 1月 12日更新

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