このページの本文へ移動

学芸論文

上毛新聞「視点 オピニオン21」より 

 『富弘作品の魅力(4) 幼少期の思い出緻密に』

  富弘美術館 主任学芸員 桑原みさ子
 

 星野富弘さんの故郷は、富弘美術館のある、みどり市東町です。美しい山並みと渡良瀬川の流れる静かな所です。富弘さんは、1946年にこの地に生まれました。終戦の年から1年後のことです。多くの人が貧しい中で生きた時代でした。

 富弘さんもまた、物資の乏しい時代に、この地で幼少期を過ごしました。幼いころから、子どもでもできる家の手伝いをし、遊び相手はもっぱら野山や川原で、やんちゃな少年時代を送りました。

 夕闇を走って/土間に跳びこめば/父が いろりの前に/すわっている/そばで母が/ねぎをきざみ/弟が 奥の部屋から/顔を出す/父が 静かにいう/うさぎの餌は/とったんか?/私は いつものように/くちをとがらせ/どどめに染まった指を見つめる
(/印は改行)

 幼少期の思い出の一場面を作品にしたもので、「ねぎぼうず」という富弘さんの詩画作品の詩文です。画面上部に、夕焼け色を背景としてこの詩文が添えられています。

 一日の仕事を終え、いろりの前にすわり、静かに「うさぎの餌はとったんか?」という父の言葉には、厳しい中にもあたたかさがひそんでいます。母は台所で夕ご飯の用意、幼い弟はすでに家の中…。昭和30年代の映画のワンシーンを見ているかのようです。

 富弘さんは小学校時代、授業で習った農業詩人・大関松三郎の『山芋』という詩集の影響を受け、「くわとり」「むぎかり」「畑うない」などの、働く詩や作文を書いています。「…農作業の手伝いも随分したが、家の手伝いより遊ぶほうが好きだったのは言うまでもない」と著書『山の向こうの美術館』に記しています。

 葉茎がふっくらとしたネギ2本が描かれています。花房は、点描表現で、緻密に表現されています。太い筆でおおらかに描かれた葉と細部までを見つめて表現された花房から、日頃、食材としてしか見ていない者は、ネギの姿の美しさにあらためて気づかされます。

 富弘さんの作品の中には、「ねぎぼうず」のような幼少期の思い出を作品にしたものが数多くあります。「子どものころのことを一つ思い出すと、次から次へと懐かしい思い出が芋づる式に出てくるんだよ」と富弘さんは言います。

 美しい自然に囲まれ、温かな家族の中で育った故郷は、富弘さんにとってかけがえのない宝なのでしょう。作品の大きな源となっています。

 幼少期の思い出をテーマにした「ねぎぼうず」のような作品群は、同時代を生きた人には特に共感され、現在を生きる子どもにも人気があり、世代を超えて愛されています。富弘作品の魅力の一つとなっています。

 

 

 

2015年6月8日 上毛新聞『視点 オピニオン21』掲載 

 

 

2016年 1月 12日更新

このページに関するアンケート

このページは見つけやすかったですか?

このページの内容はわかりやすかったですか?

このページの内容は参考になりましたか?

このページに関するお問い合わせ

教育部 富弘美術館
電話番号:0277-95-6333  FAX番号:0277-95-6100
メールアドレス:tomihiro@city.midori.gunma.jp