「まち」が、うごきだす|2024年10月号

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ページ番号1006306  更新日 2025年1月21日

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特集「まち」が、うごきだす:写真

「まち」が、うごきだす

蔵人新宇:写真
蔵を活用してオープンした店舗兼宿泊施設の「蔵人新宇」

2006年に2町1村が合併して誕生したみどり市。合併から16年目が経過した2022年、東町に続き、大間々町も過疎地域に指定された。

旧大間々町は宿場町・市場町として栄え、30年ほど前までは旧笠懸町よりも人口が多かった。そんな旧大間々町地域の市街地には、どこか寂しげな雰囲気が漂う。その理由には、相次ぐ老舗の廃業が挙げられる。

老舗の廃業

大間々町の過疎地域指定の前年に当たる2021年、120年以上の歴史を持つ、市内唯一の銭湯が歴史に幕を下ろした。それに続くかのように、うどん店、和菓子屋、八百屋。まちの顔であった老舗と呼ばれるお店が近年、相次いで閉店している。かつてはにぎわっていた商店街も他の地域同様、シャッターが目立つ。

新たな動き

しかし、ここに来て新たな動きが見え始めた。

世界中で新型コロナウイルスがまん延し、市内のイベントも軒並み中止・縮小される中「世の中が暗くなってしまっているこんな時だからこそ、何か新しいことにチャレンジしよう」と考え、市観光課でリノベーションまちづくりプロジェクトが動き出した。

担当職員も知識ゼロの中「面白そう。ピンチはチャンス。まずはやってみよう」というポジティブな発想から、コロナ禍で人と人とのつながりが減った環境の中でもまちに新たなにぎわいを生もうと、これまで試行錯誤してきた。

その動きに呼応するかのように、まちの中でも空き物件を活用して新たに開業する人や、まちなかの活性化に向けてマルシェを企画する人などが現れ始めている。

今号では、まちなかの新たな動きについて特集する。

蔵人新宇:写真1
蔵の中とは思えない空間が広がる「蔵人新宇」
蔵人新宇:写真2
1棟貸しの宿泊スペースにはインバウンド客も
蔵人新宇:写真3
蔵の中に広がるカフェスペース

未来を創造する第一歩

「リノベーションまちづくり」とは

そもそもリノベーションとは「リフォーム」と「イノベーション」を組み合わせた造語。リフォームは老朽化した建物を新築の状態に戻すことに対し、リノベーションは、既存の建物を改修することなどによって住まいの性能を向上させ、価値を高めることといわれている。

リノベーションまちづくりとは、今ある資源を活かし、地域の課題解決・エリアの価値向上を目指す民間主導のまちづくり手法のこと。今ある資源には、空き店舗や遊休不動産だけでなく人的な資源も含まれる。

民間主導のまちづくり

リノベーションまちづくりの特徴は、行政だけでなく、民間の力を借りて公民連携で取り組むことだ。行政が機会を提供し、そこに飛び込んできてくれる民間の人を募ってきた。講演会やワークショップを通じて、まちの人と行政が未来について意識を共有しながら進めている。

家守塾(やもりじゅく)の開催

家守塾の話し合い:写真

令和5年度には民間主導のまちづくりを進める上で鍵となる、まちづくり団体の設立を目指す「家守塾」を開催した。家守とは江戸時代に大家に代わって長屋などを管理し、店主・家族の御用聞きや行政サービスの一端も担い、生計を立てていた民間人の存在のこと。この現代版家守を目指し18人が5チームに分かれてこのまちの将来について真剣に議論を重ねた。

事前講演会:写真
事前講演会
ファーストプレゼン:写真
ファーストプレゼン
ユニットワーク:写真
ユニットワーク
セカンドプレゼン:写真
セカンドプレゼン

リノベーションスクールの開催

リノベーションスクール:写真

令和6年度には、受講生16人が2グループに分かれ、まちなかに実在する遊休不動産を題材に地域課題を解決する「短期集中実践型スクール」を開催。事業計画を3日間かけて作成し、事業化を前提とした公開プレゼンテーションを最終日に行った(動画を公開中)。今後も、まちづくりの未来の担い手となる人材育成に力を入れていきたい。

現地視察:写真
現地視察
事業プランの提案:写真
事業プランの提案
公開プレゼンの様子1:写真
公開プレゼンの様子1
公開プレゼンの様子2:写真
公開プレゼンの様子2
公開プレゼンの様子3:写真
公開プレゼンの様子3

リノベーションスクール参加者・ユキさんに聞いてみました

ユキさん画像

リノベーションスクールに参加したきっかけ

以前勤めていた会社の先輩がリノスクの卒業生で、私もいつか参加したいと思っていました。夫が群馬県出身というのもあり、今後みどり市にも縁ができたらいいなと思い応募しました。

参加してよかった点は?

たった3日間でしたが朝から晩まで内容が濃厚で、1年分ぐらい頭をひねったと思います。まち歩きからアイデアの出し方、プレゼンの方法まで幅広く学ぶことができました。

参加してみて、みどり市はどうだった?

意外と東京から近く、自然の豊かさに魅力を感じました。すてきなまちのプレイヤーが多くいて、これから家守塾やリノスクを通じて、さらにまちが面白くなっていきそうです! 今後もみどり市に関わっていきたいと思いました。

まちで動き出した新たな人たち

駄菓子屋パンドール:写真

リノベーションまちづくりと聞くと、どうまちを整備していくかとイメージしがちだが、まちづくりは、建物や道路を整備することだけではない。人からスタートし、巡り巡って、まちが動きだすこともある。

ままよしプロジェクトをきっかけに子どもたちが集まれる駄菓子屋を始めた石山恵里さん。空き店舗を改装し、市内で人が交流する花屋を開業した五十嵐則子さん。市内唯一の高校でまちづくりに積極的に参加している、県立大間々高等学校みらい塾の皆さん。リノベーションまちづくりと呼応するようにまちで動き出した3組にお話を聞いてみた。

地域課題について、高校生でも何かできないか|大間々高校みらい塾の生徒

みらい塾:写真

大間々高校「SDGs井上浦造みらい塾(以下、みらい塾)」は14人の生徒が在籍し、主に地域問題やジェンダー、まちづくりに関する活動に取り組んでいる。部員の中には、大間々高校への進学を選んだ理由に、みらい塾があったことを挙げる生徒もいる。地域の課題をどう解決していくかについて活動の中で話し合い、自分たちに何かできないかと探究している。

高校生から見て、みどり市は「温かく、優しい人が多いまち」と語る。通学途中にまちの人にあいさつされて感激したという声も。みどり市出身でないが、みらい塾の活動を通して、みどり市を好きになったと答える生徒もいた。一方で、車以外の移動手段の充実、大間々の商店街にスイーツのポップアップストアやキャラクターショップ、美容系のお店が増えたらと高校生ならではの視点で、まちの未来に関する意見が出た。

今後もリノベーションまちづくりに関わり、地域のために行動したいと語った。

みらい塾1:写真
大間々高校みらい塾1
みらい塾2:写真
大間々高校みらい塾2
みらい塾3:写真
大間々高校みらい塾3

まちを盛り上げたい、楽しく過ごしたい|駄菓子屋パンドール 石山恵里さん

石山恵里さん:写真

ままよしプロジェクトを夫と始めたことをきっかけに、まちを盛り上げたい、楽しく過ごしたいという思いが強くなり、昔パン屋だった店舗を借りて駄菓子屋を始めた。

「ままよし」の名前は「大間々よし」から取ったもので、大間々に受け継がれる近江商人の「三方良し」の精神にあやかり、大間々を盛り上げたいという人たちやその活動のことを指す。

石山さんは子どもたちから「てんちょう」と呼ばれ親しまれている。「こんなお菓子がいい」など子どもたちからは率直な意見もあるが、子どもと同じ目線で話していると、発想が面白く、駄菓子屋に行くと逆に自分が元気をもらえると言う。看板を出してから、近所の人が見に来てくれるようになり、徐々に周りにも認知され始め、応援してくれる人も増えてきた。

ままよしプロジェクトには地域のさまざまな人が参加してくれていて、駄菓子屋内で使っているテーブルや椅子、ゲームやパチンコ台など多くの物が手作り。石山さんは「一緒にやっているみんなのことが大好き。仕事ではないことを一生懸命やって、みんなで意見を出し合うのが楽しい。自分自身が楽しいと思うことだからやっている」と語った。

石山恵里さん1:写真
石山恵里さん1
石山恵里さん2:写真
石山恵里さん2
駄菓子屋パンドール1:写真
駄菓子屋パンドール1
駄菓子屋パンドール2:写真
駄菓子屋パンドール2

「まちの保健室」のような場所でありたい|アトリエ・ララ 五十嵐則子さん

五十嵐則子さん

花や植物が子どもの頃から大好きだったと語る五十嵐さん。周囲の人からは、店の名前からララさんと呼ばれている。「自分が癒やされるもの、自分の好きなことを仕事にすればきっと頑張れる。花と仕事ができたらこんなに幸せなことはない」。そう考えて花屋を始めたのは約3年前。花屋にたどり着くまでも、花の仕事のスキルアップのために、切り花を使ったワークショップなどを開催。一番初めに開校したのは、生まれ育った大間々だった。

3児の母である五十嵐さんは、自身をハングリー精神が旺盛な性格だと自負する。自分が知らない世界を知りたいという気持ちが強く、これまでも地域の集まりに飛び込んできた。子どもに背中で生き方を見せ、いくつになってもやり直せるし、新たなスタートが切れることを伝えたいと語る。

お店をどこに構えるか悩んだ際は、これまで子育てをしてきた環境で知人が多く、周りからの声もあり、大間々の地を選んだ。自分の行動でまちの何かが変わり、そこから始まるまちの未来を見てみたい。ここでもハングリー精神が生かされる。

「私にも元気がない時はありますが、お店に来ると不思議と元気になれるんです。お花からパワーをもらえるんです」。ちょっと元気がない時や前を向きたい時に気軽に立ち寄れる場所。お花や会話を通じて元気になって帰ってもらえる場所。「まちの保健室」のような場所でありたいと語った。

五十嵐則子さん1:写真
五十嵐則子さん1
五十嵐則子さん2:写真
五十嵐則子さん2
五十嵐則子さん3:写真
五十嵐則子さん3
五十嵐則子さん4:写真
五十嵐則子さん4

「まち」を形作っているのは、「ひと」

まちづくりを通じて得た関係性

リノベーションまちづくり:イラスト

みどり市が3年前から取り組み始めた「リノベーションまちづくり」。既存の遊休不動産に新たな価値を付与して有効活用することで、まちに新たなにぎわいを生み、結果としてエリア全体の価値向上を目指す。商店街の拠点を点から面に広げ、まちに新たな風を吹かそうとしている。

しかし、取材を重ねる中で印象に残ったのは、参加者一人一人の熱量や、心の底から楽しんでいるその姿だ。リノベーションスクールを通じて初めて知り合い、仕事や年齢、住んでいる場所や趣味嗜好も異なるメンバーが3日間膝を詰めて議論し、時には言いたいことが言えなかったり、意見が対立したりしながら、成果発表のプレゼンに向けて全員で全力で取り組む。最終発表が終わった後の彼らの達成感に満ちた顔や、講評を聞いて安堵する彼女らの顔。3日間をやり切った参加者の目からは涙がこぼれ、各チームに生まれた強い絆が感じられた。

今後の事業化に向けて

リノベーションスクールが終わってからも、そこで提案されたプロジェクトは現在進行形で動き続けている。約1カ月後の大間々祇園まつりの際は両チームが事前に準備し、各物件を開放して流しそうめんや花火などを行い、多くの人でにぎわった。参加者はプレゼンで発表したことを一日も早く実現できるよう、今も事業化に向けて定期的にミーティングを開いたり、講師から指導を受けている。いずれも参加を強要されたものではなく、自発的に、それぞれが無理のない範囲で楽しみながら取り組んでいる。

大間々六人衆

大間々のまちは、幕府直轄の足尾銅山から銅を運ぶ「あかがね街道」に近い宿場町・市場町として江戸時代に発展したが、その起源は大間々六人衆(高草木家、長澤家、大塚家、金子家、佐藤家、須永家)に遡る。元々、大間々は六人衆と呼ばれる6人が切り開いたまちだといわれている。総鎮守とした大間々神明宮の表参道と、現在は復元された道路元標(コノドント館南)との延長を基準として北を上三丁、南を下三丁としてまちを開いたとされる。

この六人衆はまちをつくった偉人として語り継がれ、書物には残らないようなさまざまな労苦を体験されたことは想像に難くないが、自分たちの手で何もなかった場所に新たなまちが生まれていく様子を眺めるのは、とても楽しい日々だったのではないだろうか。今まで何もなかった場所の景色がどんどん変わり、そこに新たな人がどんどん入ってくるのは、きっとこの上ない喜びだったはずだ。

新たな関係性づくり

リノベーションまちづくりもそれは同じで、参加者は忙しい毎日を過ごしながら、何とかミーティングに参加したり、休日に清掃や除草作業に取り組んでいる。参加者を突き動かしている原動力は、自分たちの手でまちの新たなにぎわいを創出している充実感や楽しさで、それはきっと他には代え難いものだと思う。一緒にいて楽しいメンバーでやるから、自分が関わったものにたくさんの人が来て楽しんでくれるから、続けられるし大変なことも乗り越えられる。

リノベーションまちづくりとは、新たに活用される物件をつくっていくことだけではなく、そこで活躍する「ひとづくり」や「新たな関係性づくり」なのだと感じる。今も昔も「まち」を形作っているのは「ひと」なのだ。

100年後の未来

この数年で大間々のまちからは老舗と呼ばれるお店が次々と姿を消した。その事実は決して巻き戻すことはできないが、同時にこのまちにも新たな芽はどんどん育っている。もしかしたら、今年オープンしたお店の数々が100年後の未来に老舗と呼ばれているかもしれない。私たちは知らぬ間にそんな黎明期を過ごしているのかもしれない。そう思うと、まちに繰り出さずにはいられない。

みどり市では、今後も集まる場所を創出していきます

リノベーションまちづくり:写真

「自分のまちの日常を耕す」を掲げ、一歩を踏み出した第1回リノベーションスクール。その後、各グループはさまざまな課題にぶつかりながらも徐々に歩みを進め、現在進行形で各拠点を耕している。リノベーションスクールに先行した家守塾の各チームも同様だ。

こうした歩みは直ちに目に見えるもではないが、着実に明るい兆しは現れ始めている。その様子はリノベーションまちづくりのSNSなどでも随時発信しているのでぜひご覧いただきたい。こうしたまちなかの動きに触れていただき、実際に参加していただき、そして一緒に楽しんでほしいと願う。

最後に、リノベーションまちづくり事業において重要なことは「まちづくりに関わるプレーヤーが集まる場づくり」といわれている。志のある人が集い、フラットな立場で議論する場を用意できることが極めて大切とされているからだ。

みどり市ではこうした拠点が徐々に増え、小さな拠点を点から面へとつなげていくため、まちづくりの実践者が活動しやすい環境を創出し、体制の整備を進めていく。

リノベーションまちづくりの担当課・観光課職員に聞いてみました

観光課職員:写真
観光課職員

リノベーションまちづくりは、どのようにして始まったのか

市役所内の組織を横断した取り組みを展開できないかということで、今ある資源を有効に活用するこの事業を始めることになりました。

実際に家守塾・リノベーションスクールを実施し、まちの人の反応は

「最近よく耳にするよ!」「これまでの事業と違っていいね!」と言っていただけています。

リノベーションまちづくりで苦慮している点は

いかにパブリックマインドを持った人とつながっていけるか。大学生などの若者の台頭も課題ですね。

これからのみどり市

私たちが扱っているのは物件でなく物語なので、日常を耕しながら一人一人が笑顔で暮らせて、集うまちであり続けてほしいですね!

共創し、共動しあう みどり市へ―。

共に創り、共に動く。そうした動きが周りの人に共感を生み、その共感が、輪として広がっていくことを願って―。

大間々のまちなか:写真

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