『美術館の役割(2) 絵と言葉 共鳴する芸術』
富弘美術館 館長 聖生清重
たくましい手のひらに乗せた、透明な半球で包んだ家や車などの瓦礫の山の上に小さな太陽が描かれている絵と「流されたたくさんの命(中略)かけがえのない日常を 遍(あまね)くこの手で救えたら 私の想いも救われる」との言葉(詩文)が一体化した「さん・てん・いち・いち」と題した詩画作品。昨年、富弘美術館が実施した「詩画の公募展」一般の部の大賞作品です。
作者は、宮城県七ケ浜町の小野寺忍さん。東日本大震災で被災し、悲しみの日々を過ごしていましたが、公募展をきっかけに、震災以降、手にしていなかった絵筆を握り「被災者の心や気持ちを、何とか伝えたい」と精魂込めて描いた作品です。審査委員長の小澤基弘埼玉大学教育学部教授は「ずば抜けたインパクトがある作品」と評しています。小野寺さん自身は「あの時の風景を再現することの恐怖感や嫌悪感に苛まれましたが、勇気を出して心のうちを吐き出して少し楽になりました」と話しています。
大賞作品と作者の思いを通じて実感できたことがあります。詩画の公募展をやってよかったとの思いと、詩画という表現形式の豊かな可能性に確信が持てたことです。大賞作品は、絵だけでも十分に訴える力があります。簡潔な言葉にも被災者の思いがこもっています。絵と言葉の双方とも、単独でも鑑賞する人の心に強く響く作品です。しかし、絵と言葉が一枚の画面に一体的に表現されたことで、作者の思いがより強く伝わってくるように思われます。
ところで、日本人は古くから絵と言葉が一体的に表現された作品に親しんできました。「鳥獣戯画」のような絵巻物がそうであり、最近ではクール・ジャパンの一角を占める漫画もそうです。詩画という表現への親和性が高く、それは日本の文化的伝統とも言えそうです。
昨今は、絵手紙の愛好者も増えています。絵手紙を通して友と交流する。新しい絵手紙仲間とも出会う。一人で過ごす時間が長くなりがちな高齢者が絵手紙を描くことで他者とつながり、それが生きる希望になっている方は少なくないのではないでしょうか。
実は、絵手紙も詩画の一分野です。人と人との心の交流が主目的の絵手紙。自らの体験や思いを自由に表現する詩画。描く人にとって、両者の境界線は想像以上に低いのだと思います。
公募展では、こども達からも柔らかな感性から生まれた作品が寄せられました。草花や虫、ペットの絵と言葉で命の尊さを、スポーツ用具の絵と言葉で親への感謝や自分の目標を表現した作品は、体験や思いが率直に表れていて、どれもが個性的です。
絵と言葉が相互に共鳴し、生かし合う詩画。この古くて新しい表現形式の芸術をもっともっと広めたいと思います。
2014年2月19日上毛新聞『視点 オピニオン21』掲載
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