『富弘作品の魅力(6) 作品の源「鈴の鳴る道」』
富弘美術館 主任学芸員 桑原みさ子
過ごしやすい季節になりました。先日久しぶりに星野富弘さんの散歩コースを歩いてみました。東町の神戸から小中にかけての道です。この道は、富弘さんが長い入院生活に終止符を打ち、故郷へ戻ってから、よく通った道です。
この富弘さんの散歩コースを私たちは、「鈴の鳴る道」と呼んでいます(命名の由来は星野富弘著『鈴の鳴る道』の文中からです)。
ドウダンツツジの葉が少し色づき始め、道ばたには野菊やアザミ、彼岸花が咲いていました。日頃、庭に咲いていると、ただの雑草としてしか見ていない花も、この散歩道で見ると名も分からない小さな花までもが、なぜか特別に美しく見えます。澄んだ空気と山々の景色、そして、車の音のしない静けさがそう見せてくれるのでしょうか。この日は、一日、心地よいひとときを過ごしました。
富弘さんが1980年代に制作した作品のモチーフとなる花のほとんどは、この道に咲く草花です。一度、お時間のある時に「鈴の鳴る道」を歩いてみてはいかがでしょうか。当館のボランティアの方々が日を設けて案内しています。
富弘作品は、年を増すごとに昇華され、作品そのものの輝きを増しています。それら多くの作品の源にあるものは、故郷です。この地で生まれ育ったことが彼の感性を育み、作品となって生まれているのだと思います。
富弘美術館では11月29日まで、新刊発行記念原画展「詩画とともに生きる」を開催しています。富弘さんの制作の原点を探る展示です。負傷後にかいた文字や絵はもちろん、貴重な幼少期の絵も展示しています。富弘さんは、この地での生活がなかったら、今の作品は生まれなかった、と言っています。
ところで、当館は来年に開館25周年を迎えます。「やさしさにいつでも逢(あ)える」をキャッチフレーズに、今日まで運営され、今も富弘作品のファンが多く訪れています。山懐に抱かれた星野富弘さんの故郷に建つこの美術館に、多い時には年間40万人以上の来館者がありました。やさしさあふれる富弘さんの詩画作品を核に、周囲にそびえ立つ三境山や根本山、水を満々にたたえた草木湖。雑踏から離れたこの場所で、来館者は、心を安らかにして作品と向き合うひとときのために訪れるのだと思います。
来年度は、25周年記念企画展「はるかなる生命の詩」を計画しています。生命をテーマとする展覧会です。幼少期に育まれた感性のもと、負傷によって見えてきた「いのちの尊さ・いのちの輝き」を放つ作品を一堂に展示したいと思っています。ぜひ富弘美術館に足を運んでください。
2015年10月3日上毛新聞『視点 オピニオン21』掲載
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