『美術館の役割(5) 生涯学習と「自己発見」』
富弘美術館 館長 聖生清重
美術館は、設置者以外に、来館者や地域住民、ボランティア、ファンなど大勢の方々に支えられています。富弘美術館も、地域の関係者をはじめ、富弘美術館を囲む会会員やサポーター(当館ではボランティアをサポーターと呼称)に支えられて、開館から23年目に入りました。
筆者は館長に就任した2011年秋に東京・上野で開かれた国立教育政策研究所社会教育実践研究センター主催の博物館長研修に参加しました。研修の主題は「危機管理」と「地域との連携」でした。
星野富弘さんは、地域との連携を大事にしており、筆者もそう考えていましたので、研修によって「地域との一体感の醸成、連携の深化」を促進しようとの思いを一層強くしました。
地域との連携では、地元みどり市内小中学生対象の「豊かな心」育成の授業実践を第3回(4月19日付)で書きました。今回は、生涯学習との関連でサポーター活動を紹介します。
富弘美術館のサポーターは、朗読、園芸、館内案内、草花スケッチ・アクセサリーづくり・フェルトクラフト・編み物などのワークショップ、富弘さんのふるさと散策案内、大きな詩画づくりなどの夏休みイベントを手伝ってくださっています。
富弘作品を朗読する杲(ひので)の会の朗読会(月に1回)は今7月で85回を数えます。朗読会は大変、好評で館内での朗読だけでなく市内外の中学校からも依頼され、出前朗読をしています。加えて、今年8月には、地元の東中学校生と一緒に朗読会を開くことになりました。
みどり市在住の女性サポーターのMさんは「時間が自由になったら、1日24時間を睡眠、自分のため、他者のための3分の1ずつに使おうと思っていたので、ボランティアを始めました。やってみて『他者のため』のはずが、実は『自分のため』だったことが分かりました」と心の変化を話しています。
絵と言葉が一体化した富弘作品のような詩画制作の営みを小澤基弘埼玉大学教育学部教授は「自己発見の旅」だと言います。小澤説に従えば、Mさんは、ボランティア活動を通じて、新しい自己を発見する旅を楽しんでいます。Mさんの仲間や国内外で独自に活動している囲む会会員も、おそらくそうでしょう。
現代に生きる人々は、長寿社会をどう生きるのか、という課題に直面しています。これに対して美術館は、作品展示という本来の役割だけなく、生涯学習の場と機会の提供という役割も期待されています。
地域住民、囲む会会員、サポーターが共に「自己発見の旅」を続け、豊かな気持ちになれるように、また、生涯学習の拠点となるように、もっと知恵をしぼり、汗をかかなければいけないと肝に銘じています。
2014年8月3日上毛新聞『視点 オピニオン21』掲載
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